少女マンガ、ギャグ、サブカル! マンガ沼に潜り続ける岡山天音が愛してやまない5作

岡山天音

『ひよっこ』『ゆうべはお楽しみでしたね』『同期のサクラ』など、人気ドラマや映画に次々と出演し、一度見たら忘れられないやわらかい魅力で私たちをトリコにする俳優、岡山天音さん。

そんな岡山さんの“友達”は、マンガ。しかも、いわゆるサブカルマンガから少女マンガまで、長年にわたり幅広く読んでいるらしい――。

そんな噂を聞きつけて、岡山さんのマンガ愛を深堀りしつつ、俳優・岡山天音を“作り上げた”5作についてプレゼンしてもらいました。

コンビニで出逢い、その後のマンガ人生を決定づけたギャグマンガの金字塔から、お母さんと親子二代にわたって愛するレジェンド少女マンガ家のあの作品、サブカルラバーズなら誰もが納得するあの個性派マンガまで……ふだんは人見知りだという岡山さんが、ことマンガとなると熱っぽく語る様子とともにお楽しみください!

撮影:吉松伸太郎  取材・文:石黒容子

その後のマンガ人生を決定づけた、コンビニでの出逢い

岡山天音

――マンガは、子どもの頃から身近にあったのでしょうか?

マンガに触れ出したのは小学生くらいのときですね。小さい頃から絵を描くのが大好きだったので、マンガも身近に感じていました。

――記憶のはじめのほうにあるマンガ作品は?

僕のいとこもすごくマンガ好きで、僕らふたりとも、マンガが趣味の真ん中にあったんです。仲がよくて、定期的にうちに遊びに来ていたんですが、いとこがたまたまコンビニで買った『ピューと吹くジャガー』の、そのときの最新刊の6巻が強烈でした。

うすた京介『ピューと吹くジャガー』6巻、集英社、2003年

うすた京介『ピューと吹くジャガー』6巻、集英社、2003年

『ピューと吹くジャガー』(2001-10年)

『週刊少年ジャンプ』で連載されていたギャグマンガの金字塔。全20巻。

白いカバーに、ジャガーさんの、どういう感情かわからない謎の表情がアップで、しかもリアルなタッチで描かれていて。でもコミックを開いて中の絵を見たら全然雰囲気が違うし(笑)。その巻では、ジャガーさんの顔が毎話変わるんですよ、主役なのに。それを買ってきてふたりで読んだら、めちゃくちゃ笑って。

――(笑)。いきなり6巻から読んだのに、笑った。

「なにこれ!? こんなジャンルのマンガがあるのか?」と。それが、「マンガが好き」と自覚するきっかけになったのかもしれない。小学3、4年生の頃だったので、まわりの同級生でこの面白さをわかってくれる人はなかなかいなかったですね。

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多くの人と接する反動で、マンガはひとりで没入する

――では、俳優としてデビューされた2009年前後には、すでにマンガはかなり読んでいたのでしょうか?

もう、めちゃめちゃ読んでました。毎日のように、一日に何冊とか読んだりしていましたね。

――そうすると、これまでを通じて、岡山さんの一番の娯楽はマンガを読むことだったのでしょうか?

はい、そうだと思います。

――俳優の道に入ってから、マンガの読み方や、選ぶ作品は変わってきましたか?

変わらないですね。もともと特定のジャンルに偏って読むのではなく、色んな作品を広く読んでいくタイプなので、そこはそのまま変わらないです。

――今は、どんなシチュエーションやタイミングでマンガを読むことが多いですか?

仕事のときは全く読まないです。家でとか、休みの日にどこか外に出るときに、買ったマンガを持っていって読むことが多いですね。最近は、新しい作品を買うというよりも、読んだことのある作品をあらためて読み返すことが多いです。

――マンガを読んで、同業者やお友達と盛り上がったりしますか?

しないですね。マンガは人と共有する趣味ではなく、ひとりでとにかく没入して読みます。仕事柄、現場ごとに新しいスタッフさんやキャストさんたちとお仕事をして、何か月かで別の現場に変わり、またはじめましてからスタート。作品が公開になったらなったで、お客さんの前に立って……という、とにかくすごい数の人たちとつながっていくんです。

その反動で、とにかくひとりになれる時間が自分のなかでものすごく大事なんです。マンガは、そうしたところとつながっている趣味ですね。

【岡山天音を作ったマンガ5作・ラインナップ】

 

プロ意識に「怖っ!」と思った。母子二代で愛する少女マンガのレジェンド                            

くらもちふさこ『くらもちふさこ THE BEST2』集英社、2004年

くらもちふさこ『くらもちふさこ THE BEST2』集英社、2004年

『くらもちふさこ THE BEST2』(2004年)

『いつもポケットにショパン』や『天然コケッコー』などの代表作があるくらもちふさこが雑誌『コーラス』で発表した読み切りを集めて編んだ短編集。少女の淡い恋心が成長とともに変遷していくさまを描いた『100年の恋も覚めてしまう』ほか、近未来を描いた『コネクト2204』などを収録。

くらもちふさこさんの作品を読み始めたきっかけは、母でした。もともと母がくらもちさんが好きで、家に何冊かあったんです。ただ、母は『いつもポケットにショパン』とか、初期の作品が好きみたいで、僕は最近の作品を読み返すことのほうが多いですね。『天然コケッコー』や『花に染む』や『駅から5分』など。

くらもちさんって、年代によって絵もすごく変わっていますよね。それから、くらもちさんも、あとで触れるいくえみさんも、見る人の性別を選ばない絵柄なので、単純にビジュアルだけで見ても「かっこいいな」と思う。それが大きいかもしれないですね。

岡山天音

そして、くらもちふさこさんの作品はいつも、「そこをマンガにできる力がすごいな!」って思います。自分が日常で感じてる機微とか、「なんか、わかるなー!」っていう感覚。

この『BEST2』は短編集で、そのなかの『百年の恋も覚めてしまう』(1992)という作品。主人公の小学生・笙子(しょうこ)ちゃんには、新田(あらた)くんというすごく好きな男の子がいる。だけど、母親にその話をしようと思ったら、「あの子目と目が離れてておもしろい顔してるわよねー」と言われてしまい、女の子も「ホントだ!」って思っちゃって、そこから好きじゃなくなっちゃう、というところから始まります。

まずそこが衝撃だった。この時代に、少女マンガで、人のそういう心の機微をすくいとって自分の作品にしてる人ってすごいなあとびっくりして。くらもちさんの勇気とセンスに脱帽します。

『コネクト2204』(2003)というお話は、人間が番号で呼ばれるようになった未来の世界が舞台。元気な女の子とオタク寄りの男の子がいて、最初は全然違うカーストにいるふたりが、ふとしたことをきっかけにちょっとずつ接点ができていく……。

この話を読んだのも子どもの頃でしたが、おそらく、自分がその頃やっていたカードゲームがモデルと思われるゲームが登場します。そのゲームのディティールにもすごくこだわりを感じて、「くらもち先生、怖っ!」と感じたのを覚えています。

だって、男の子がやるようなカードゲームなんて、くらもち先生からすると全然違うジャンル、別の村のことだと思うんですよ。それさえも「現実からトレースして、きっちり描かなきゃいけない」ととらえている人なのか、と思ったときに、すごさを通り越して恐ろしさを感じたんです(笑)。

「神は細部に宿る」という言葉がありますが、自分が仕事するうえでも、そうしたものを大事にしたいという思いがあります。そんな「自分のなかでの正義」が小さい頃から僕のなかにもあるし、うまく言えないけれど、くらもち先生のなかにもある、そういうところが好きです。

どこ切り取ってんの?「現実から何を引っ張ってくるか」のセンスに脱帽                          

黒田硫黄『茄子』1巻、講談社、2001年

黒田硫黄『茄子』1巻、講談社、2001年

『茄子』(2001-02年)

主役は「ナス」の群像劇。時代も場所も様々な舞台で、なにげない日常のなかの人間関係や生活の断片を、ナスのある風景を交えて描いたヒューマンドラマ。黒田硫黄の代表作のひとつ。全3巻。

黒田さんの『大金星』(2008)という短編集が出たときに、本屋さんで『茄子』も一緒に並んでいるのを見て、初めて黒田さんの作品に触れました。

淡々とした、いろんな日常の側面を描いているんですが、なんか不思議な作品ですよね…… タイトルどおり、茄子が至るところに登場するんですけど、筆のようなタッチで、すごくフラットにラフに描いてるように見えて、完璧なんですよね。圧倒的に絵がうまいんです! 茄子でここまで描けるのはすごいマンガだと思います。超好きですね。めっちゃ読み返す作品です。

どのマンガでも、ドラマや映画でもそうなんですけど、現実からなにかを引っ張ってきて、作品として表現しているわけです。で、黒田さんの場合は、その「現実から何を引っ張ってくるか」のセンスが、すごく好きなんだと思います。ほかの人も、感じているかもしれないけれども無意識下にあるようなものを、ちゃんと自覚的に、ひとコマにのせて描いている。

具体的には、ふとした表情とか……たとえば、1話の最初のほうで、女の子が歯磨きをしたあとに「ぺ」って吐き出すシーンがあります。日常では、人のこういうときの顔って、ほんとはすごく印象としては残っているんだけど、あえてそれを、あらためて自分の身体を通して表現する――そういう自覚性を持ってる人ってあまりいないなあ、と。

人の顔以外にも、感覚とか、キャラクターたちの持ってる価値観や機微が、自分とすごくマッチしているのかもしれません。それから、人物のポージングも、ほかのマンガであるような決まった型ではなく、人の営みと、そのおかしみみたいなものが込められていると感じます。

岡山天音物語の淡々とした感じもリアルというか、「こういうことです!」って読者に押し付けてこない。高間さん(主人公)の人生のなかで、彼女なのか恋人なのかよくわからない女性との独特の関係性が切り取られているかと思えば、料理しているシーンも多かったりで、「どこ切り取ってんの?」(笑)みたいな、軸足がどこにあるのかイマイチわからないのも、すごく心地いいんです。

茄子料理がたくさん紹介されているんですが、うまそうですよね。「カレーには、トマトのペーストを入れるとうまくなる」みたいなシーンもあって、10代の頃にマネした記憶があります(笑)。

この話、どこにいっちゃうの? 意外とない、俳優が主人公のマンガ                          

いくえみ綾『トーチソング・エコロジー』1巻、幻冬舎、2012年

いくえみ綾『トーチソング・エコロジー』1巻、幻冬舎、2012年

『トーチソング・エコロジー』(2012-14年)

売れない役者・清武迪(きよたけ・すすむ)のアパートの隣の部屋に引っ越してきた、元同級生の日下苑(くさか・その)。そして迪だけに見える謎の少女。彼女たちの歌が、迪の日常を揺り動かしていく。全3巻。

僕、マンガを読むときに絵もすごく大事な要素なんです。「面白いから読んで!」って勧められても、絵の相性が悪くて引き込まれないものもあるくらいで。その点、いくえみさんもくらもちさんも、最初の出会いでの絵のインパクトは大きかったですね。

『トーチソング・エコロジー』は俳優が主人公のお話です。いくえみさんはいろんなジャンルの作品を描かれている作家さんですが、これはとくに、読み進めながら展開にびっくりした作品です。

物語は色んな人物の視点から語られますが、基本的な主人公はエキストラとかをやってる売れてない役者で、お話しが進むにつれ、俳優として大成していきます。「この話、どこにいっちゃうんだろう?」みたいな感覚を持ちながら、最初、夢中で読んだ記憶ありますね。

作品と出会ったきっかけは、多分ネットの情報です。ブログでお勧めされているのを見たのかな? ネットの情報から入って読んでみることも結構多いですね。

 

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ちょっとスピリチュアルな世界が描かれていたりと、これも不思議なお話です。芸能界や俳優の仕事についても描かれていて、もちろん実際とは違う部分もありますが、同時にめちゃめちゃリアリティがあるというか、作品の「嘘」として、十二分に成立しているのがすごい。あと、俳優を主人公にしたマンガって、実はありそうであんまりないので、そこも親近感が湧いて、好きなのかも。

そして気になるのは、いくえみさんが構想の段階で、どのあたりの展開まで決めてあったのか。そのくらい、先が読めない。かといって、読んでいて距離を感じるわけでもなく、どんどん感情移入して、のめりこんでいく――こういう体験は初でした。

いい意味で、感性のままに描いているようにも感じるというか、物語を作るうえでのフォーマットを踏んでいないとも感じるんですけど、かつ、すごく完成された作品なので、その不思議なアンバランスさが好きですね。

読んでいて、紙から温度や体温が伝わってくるのはこの作家                          

松本大洋『ピンポン』1巻、小学館、1996年

松本大洋『ピンポン』1巻、小学館、1996年

『ピンポン』(1996-97年)

月本(通称・スマイル)と星野(通称・ペコ)とは幼馴染みで、小学生時代に駅前の卓球場タムラでラケットを握っていた頃からの仲。天才肌の星野はいつも好き勝手やり放題で、今日も部活をさぼっていた。先輩たちに「星野を部活に連れてこい」と命令される月本だったが……。幼馴染のふたりが卓球を通してライバルになり、成長していくさまを描く。全5巻。

松本大洋さんの作品で、最初にハマったのが『ピンポン』です。松本さんは、最近の作品まで全部読んでいて大好きなんですけど、なんというか、『ピンポン』も『サニー』も、マンガでも映画でもないし、「なんだこの濃度は!」とびっくりします。

読んでいて、体温とか温度みたいなものが伝わってくるのってすごいですよね。そうした感覚を大事にしているので、マンガはやっぱり紙で買って読みますね。

岡山天音

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松本さんは、ほかの作家さんなら定規を使ったり、デジタルで線をひいちゃうところも、あえてフリーハンドで描いていたりします。そこがすごく好きで、ひとコマずつ情報として吸収していくというよりも、立ち止まって絵画やアート作品を見る感じで、じっくり眺めるのがすごく好きなんです。マンガやフィクション、アートが一体となったなにかとして、そこに触れてる感覚や温度が心地よくて読んじゃう。

そして、強烈な個性と確固たる世界観があるので、「どんなマンガが好き?」と聞かれたときも、『ピンポン』を挙げればたいていわかってもらえるので、便利ですね(笑)。

読むと濾過される。物づくりの普遍的な喜びと苦しみがそこに                          

山口つばさ『ブルーピリオド』1巻、講談社、2017年

山口つばさ『ブルーピリオド』1巻、講談社、2017年

『ブルーピリオド』(2017年-)

成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎(やぐち・やとら)はある日、一枚の絵に心奪われる。その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。八虎と仲間たちは「好きなこと」を支えに未来を目指す。1~5巻、以下続刊。

ひとことで言うと、「スポーツではなく、絵画がテーマのスポ根マンガ」。そこが新鮮で面白いんです。このマンガも、絵がとってもいいんですよね。ひと目で「あ、山口つばささんの絵だ!」ってわかる。

主人公の八虎(やとら)は高校生ですが、「なにかを好きで、その道を極めたくて邁進している」という意味でいうと、自分とも通ずるところがあると感じるんです。八虎の「絵が好きなんだ」という感情の純度には、読んでいて感化されますね。彼にすごく同化しながら読んでるんだと思います。

なにかに熱い人たちを描いたマンガでは、『BLUE GIANT』(石塚真一。ジャズに魅了された高校生を描く)もすごく好きです。道を極めていくマンガは、主人公に同化して、すごく自分と近いところで読み進めていますね。

岡山天音

僕も俳優というお仕事でものづくりに携わっているわけですが、そこにまつわる普遍的な喜びや苦しみがそうしたマンガでも描かれているので、共感しているのかもしれない。なんというか、読むとスッとするんですよね。

自分も、もちろん好きで始めた仕事だけど、時々トラップというか、不純物がまじりかける瞬間もあるんです。軸として、「お芝居が好きで、こういうことがやりたい」という意思はあって、その感情は絶対になくならないんですが、とはいえ仕事なので、単純にそれだけではやっていけないこともあったりする。

そういうときにこういうマンガは、「お芝居への愛があってやってるんだ」という地点に立ち戻らせてくれる。「そうだよな」と共感する。

八虎にもいろんな葛藤があるけど、結局最後は、愚直に自分の絵と向き合うことに行き着く。フィクションの人物ですが、「僕の考えに共感してくれる人を見つけたぞ」としみじみしますね。僕自身も彼に共感するし、読むと自分が濾過されるみたいな感覚があります。

僕は、同業者で同世代の人たちと飲みに行くこともあんまりしないので、マンガを読むことで「熱い人たち」と会って、自分もまた燃料をもらう――それに近い感覚があるのかもしれないです。

岡山天音

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特技はダンス? 映画『踊ってミタ』で踊ってみた

――素敵なプレゼンをありがとうございました! さて、岡山さん主演映画『踊ってミタ』の飯塚監督とは、短編映画『チキンズダイナマイト』(2015)『ポエトリーエンジェル』(2017)に続いて、3度目のタッグなんですね。今回はタイトルのとおり、「ダンス」がテーマですが、岡山さんの公式プロフィールには「特技:ヒップホップダンス」とあったので、得意なんですよね?

あ、ウソです。

――えっ!?

あははは。小さい頃から中学生のはじめくらいまで習っていたのはたしかです(笑)。それから、前に一度だけダンスを題材にしたドラマに出たこともあるし、特技と言えるものはあんまりないので、役者を始めて最初の頃にプロフィール欄に書いてみたんですけど……今回の映画で久々に踊ったのですが、特技欄からははやく消したいですね(笑)。

――(笑)。岡山さん演じる三田(みた)というキャラクターは、東京で夢破れた映像作家で、いまは地元の町役場で働く底辺YouTuberです。ひょんなことから三田は地元でかき集めたメンバーと一緒に踊る様子を配信することになりますが、三田の不器用だけど一生懸命なダンスには心打たれました。

三田の不器用さは、実際の自分と地続きの感覚なので、そこは役をたぐり寄せる大きな要素でしたね。僕もこの仕事をしてると、結構その……自分が『ドラゴンボール』のクリリンのような、“まわりが異星人のすごい能力者人ばっかり”みたいな感覚になることが多いんです。

大スターの方々と共演させていただく機会が多いなか、クリリンだけ人間なので、三田の感覚と近いんですよね。だから演じるうえでは、難しいと感じるよりも「わかるなー」「ほっとけないなー」というふうに、キャラクターに対してストレートに愛を持ちました。

――なるほど。『ポエトリーエンジェル』に続き、“なにかになりたいけど、何者にもなれない”キャラ、“自分が思う自分と、現実の自分に差がある”キャラの系譜だと感じました。三田のそうした部分にも、ご自身と地続きで、スムーズに寄り添えましたか?

そうですね……そういう部分って誰しもあると思うんです。同時に自分自身も、誰かから見た理想の場所に立ってるんだろうなとも思いますし、仮に、「このくらい仕事で大成したい」と思っていて、まさにそのポジションにつけたときに、じゃあ自分の孤独は終わったのかというと、そうじゃなかったりする。

そんなふうに、自分の憧れている人もふくめて、どこかで欠落したものを持ちながら過ごしているのかもしれない。だから、三田の焦燥は、共感できる部分でもあり、やっぱり誰しもが思ってる感覚でもあるだろうなと思います。

岡山天音

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いつの間にか近づく距離に、映画体験の醍醐味が

――私が感じた『踊ってミタ』の魅力のひとつは、「人って、踊っているだけですごくかわいくて親しみが持てるんだ」と、人間の持つ不思議なかわいさを再発見できたことです。踊っているだけでみんなかわいくて、失礼ながら、ルー大柴さんですらかわいかったです(笑)。

たしかに(笑)!

――では、岡山さんが思う『踊ってミタ』の一番の見どころは?

まず、バラエティに富んだ登場人物がたくさん出てきます。だけど、型にはまったキャラクターがひとりもいない。僕が演じる三田も、加藤小夏さんが演じる小泉も、はたから見てると最初は腹が立つような、近寄りがたいキャラから始まります。だけど気づいたら、どんどん愛らしく見えてくる。

それって映画体験の醍醐味だと思うんですよね。出てくるキャラクターのある一面だけではなく、ちゃんと立体的に描かれているからこそなんです。

そういう、一瞬「この人やだな」って思っちゃうような、ダメでネガティブな側面を持ったキャラクターたちが、映画を見終わったときには愛しく思えて、ときには自分を重ねてしまっていたり。

入口としてはとってもポップな作品だけど、間違いなく、魅力的な生きた人間が立っている作品でもあります。そういった意味で、お休みの日にでも気楽に、映画館に足を運んでもらえたらなと思います。

『踊ってミタ』ポスター

『踊ってミタ』

飯塚俊光監督/2020年公開。意識高い系の映像作家になる夢に破れ、故郷の町役場の観光課職員となるが、夢を諦め切れずにいる三田(岡山天音)。そんな彼の元に、2週間で町を活性化しろとの町長からの命が下る。しかし、観光名所も何もない町で画期的な案があるはずもなく、苦肉の策で町民参加の「踊り」によるPR画像を制作することになり、そこから三田の悪戦苦闘の日々が始まる。

一度は町に見切りをつけたものの、それでも町や人にそれぞれの思いを抱く、つながりの薄かった人間たちが、「踊り」を通じて一歩踏み出し、触れ合い、自身と向き合うことで生きる活気や絆、そして夢を取り戻してゆく姿を描く。

飯塚俊光監督が解説 岡山天音のと『踊ってミタ』の魅力

飯塚俊光監督

監督って多分、自分を投影できる人を探しているんです。天音くんは、考え方とか、ちょっとほかの人とは違う目線を持って見ている。俺もどっちかというと物事をななめに見るタイプなので、自分を投影しやすい。だから『チキンズダイナマイト』以来、天音くんに主役を演じてもらい続けているんでしょうね。

今回の『踊ってミタ』では、とくに男の人が誰しも持っているような普遍性――どこか世間体で生きていたり、自分を大きく見せたいという願望――を、天音くんが三田という役どころで、ちょっと誇張してうまく演じてくれています。実際生きていくことって、みんながみんなカッコよくいられるわけじゃないから……天音くんは、今の20代の一般的男性の、どこか代表になれる部分があるんじゃないかな。

今回はダンスがテーマの中心にありますけど、今まで俺が見ていたダンスの映画って、みんな揃ってて、みんなが笑顔。でもそれって、どこか俺のなかで、「前向きに生きろ」って強制されている感じがするんですよね。俺の考え方はどちらかというと、「後ろ向きでも生きていかなくちゃいけないのが人間だよね」。だから、そういう軸に合わせて踊りも演出していきました。

だって実際には、踊っていようが、笑うやつも笑わないやつもいるし、振り付け覚えられないやつは覚えられなくていいし……。自分がそうだから言いますけど、人生で、勝ってる人間なんて少ないですからね。そんな映画に、天音くんも悩みながら、明確に演技のプランを持って臨んでくれた。彼の成長も楽しんでもらえると思います。

岡山天音

プロフィール

岡山天音(おかやま・あまね)
1994年6月17日生まれ、東京都出身。中学生のときに『中学生日記』(NHK)に応募し、オーディションに合格。2017年、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演。19年は、ドラマ『I”s』『ゆうべはお楽しみでしたね』『デザイナー 渋井直人の休日』『ヴィレヴァン!』『同期のサクラ』、映画『新聞記者』『王様になれ』など、多くの作品に出演。

 

映画情報

映画『踊ってミタ』

3月7日(土)ロードショー