柚希礼音が考える“本当にかっこいい”男役 元トップスターが語る忘れられない宝塚歌劇

柚希礼音

圧倒的な存在感とダイナミックなダンス、心を揺さぶる演技で人気を集める柚希礼音(ゆずき・れおん)さん。1999年に入団した宝塚歌劇団では、2009~2015年まで6年間にわたって星組トップスターとして活躍。2014年の宝塚歌劇100周年の幕開け公演で主役を務め、2015年の退団時には、劇場の前に史上最多1万2000人のファンが駆けつけ、伝説となりました。

今年5月にはコロナ禍のなか、柚希さんの呼びかけによって元宝塚トップスター&トップ娘役計19名が豪華共演したリモート歌唱動画『青い星の上で』がYouTubeで公開され、120万再生を突破するなど大きな注目を集めています。退団後もなお、宝塚愛にあふれる柚希さんに、自身の「節目・転機となった宝塚歌劇3作品」をお聞きするとともに、宝塚歌劇の魅力を熱く語っていただきました。

撮影:平野敬久 取材・文:大原 薫
ヘアメイク:CHIHARU スタイリスト:間山雄紀(M0)
記事制作:オリコンNewS

退団しても一つになれる“宝塚の絆”

柚希礼音

――柚希さんの呼びかけで元宝塚トップスター、トップ娘役19名が集結し、宝塚時代の名曲『青い星の上で』を歌った動画がYouTubeで5月29日に公開され、再生回数120万回超と大きな話題を集めました。ファンからは「ちえさん(柚希さんの本名)のおかげで豪華な共演が見られた」と感激の声が上がっていましたが、改めて、この動画実現の経緯を教えていただけますか?

新型コロナウイルス感染症の影響で公演の中止・延期が続く中、「何かできないか」と考えていました。企画した頃はリモート歌唱の動画がいくつかアップされていたんですが、観た方がホッとするような、笑顔になれることがしたいと思って。宝塚歌劇100周年以降を共に過ごしてきたトップスターの方々に声をかけさせていただき、そうしたら皆さんすぐに「やろう、やろう」って言ってくれたんです。

みんな、“何かしたい”と思っていたけれど、どうしたらいいかわからなかったようで、声をかけたら快諾してくださいまして。宝塚を退団して、別々の事務所に所属するようになって、それぞれ違うことをしていても、こういうときにはみんなの心が一つになれる。“宝塚の絆”はすごいなと改めて思う瞬間でした。                            

元トップスター19人が集結し披露した『青い星の上で』

――『青い星の上で』は、2001年に稔幸(みのる・こう/元星組トップスター)さんが主演された星組公演『夢は世界を翔けめぐる』の中で歌われた楽曲です。なぜこの曲を選ばれたのでしょうか。

私はこの公演に出演していたんですが、「青い星の上に生まれた私たち。今は本当に大変な時だけれど、私たちが生きている地球はやっぱり素敵なんだ」と感じられる曲だなと思ったんです。稔さんからも「この曲を歌ってくれたんだね」と連絡をいただきました。

舞台を励みにしていらっしゃるファンの皆様にも、公演中止が続いていた現役のタカラジェンヌたちにも愛を届けたいという思いで、YouTubeチャンネルは「Our Song For You-また会える日まで-」と名付けました。

柚希礼音

――ファンの皆さんはもちろん、今回初めてタカラジェンヌのパフォーマンスを見た人たち、それに現役のタカラジェンヌもこの歌で励まされたのではないかと思います。

(星組新トップスターの)礼真琴(れい・まこと)さんが「すごくうれしかったです」と一番に言ってきてくれて。大劇場でのトップお披露目公演(2月7日~3月9日/宝塚大劇場)の後、新型コロナウイルス対策で東京公演が延期になり、東京でのお披露目公演まで何か月も空いてしまったんですよね。

自分のお披露目公演のときは勢いで行ったという感じだったから、大劇場の後に東京公演まで間が空いてしまって、(礼さんは)余計緊張するんじゃないかな。でも、東京でのお披露目公演が決まって(7月31日~9月20日/東京宝塚劇場。8/18現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、一部公演を中止 ※取材日7月中旬)よかったなと思います。

柚希礼音

――『青い星の上で』の動画を見て感じたのは、元トップコンビの絆の深さです。リモートで別々に撮っているのに、まるで宝塚時代のデュエットダンスのように息が合っていることに驚きました。

夢咲ねねさん(柚希さんの相手役だった元星組トップ娘役)に自分の映像を送ったとき、「ねね、このウインクのタイミングに絶対合わせてね」と言ったんですけど(笑)、各コンビでもいろんなことを話し合ったんだろうと思うんです。振りの角度までみんな、ぴったり合ってましたからね。

宝塚を卒業して(元男役の)髪が長くなっても、こうやって二人で映ると宝塚のときのようなコンビ感が出てくる。すごいなと思いますね。SHUN(大村俊介)先生が「たとえ離れていても、本当はお互い触れ合いたいんだ」という思いを振り付けてくださったんです。私も初めて見たときは、感動して涙が出ました。

“舞台人”柚希礼音の転機となった宝塚時代の作品3選

柚希礼音

                            

生半可な努力では舞台に立てないことを教わった――『THE SCARLET PIMPERNEL』

柚希礼音

――さて、ここからは柚希さんが宝塚時代に「節目・転機となった3作品」を選んでいただきます。

節目となった作品がいっぱいありすぎて……。お披露目公演の『太王四神記ver.II-新たなる王の旅立ち-』や『ロミオとジュリエット』、『オーシャンズ11』、『ノバ・ボサ・ノバ』、退団公演の『黒豹の如く』『Dear DIAMOND!!』も自分にとっては大切な節目です。

ただ、“舞台人・柚希礼音”の節目として選ぶと、『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』のショーヴラン、柚希礼音スペシャル・ライブ『REON!!』、『眠らない男・ナポレオン -愛と栄光の涯に-』のナポレオン・ボナパルトですね。

星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』
脚本・作詞:ナン・ナイトン
音楽:フランク・ワイルドホーン
潤色・演出:小池修一郎
公演期間(初演):2008年6月20日~8月4日(宝塚大劇場)/8月22日~10月5日(東京宝塚劇場)
あらすじ:フランス革命の最中、革命政府に捕らえられた貴族たちを救い出すイギリスの秘密結社「スカーレット ピンパーネル」。その首領パーシー・ブレイクニーと、革命政府全権大使として組織の壊滅に乗り出したショーヴランとの駆け引きを、パーシーの妻マルグリットを交えた3人の愛憎を絡ませながら描く。

――『スカーレット ピンパーネル』はブロードウェイミュージカルで、宝塚では2008年に星組が初演された作品。当時の星組トップスターの安蘭けい(あらん・けい)さんが首領のパーシー、そして二番手だった柚希さんはショーヴランを演じました。二番手時代のこの作品を選ばれたのはどうしてでしょうか?

自分が二番手になれたのも奇跡のような出来事でしたし、安蘭けいさんと実力の差を感じていました。ショーヴランという大役をいただいて、演出の小池修一郎先生からは「柚希礼音がこけたら『スカーレット ピンパーネル』がこけるよ」とひたすら言われ、いっぱい怒られながら演じました。それまでも一生懸命取り組んできましたが、生半可な努力では舞台に立てないことを教わった作品です。

柚希礼音

――『レ・ミゼラブル』のジャベール警部を連想させるような、暗い情熱でパーシーを追い詰めるショーヴラン。具体的にはどう取り組みましたか?

屈折したものを内に秘めたショーヴランは、自分からは果てしなく遠いキャラクター。寝る間を惜しんで1日24時間使って取り組んでも間に合わないというくらいの難役でした。

出番の直前までみんなと楽しくしゃべって、出番になったらスイッチを切り替えて演じるというのは、ベテランさんだからできること。休憩時間に仲間と楽しく笑っているようではショーヴランになることはできない。だから、1日中ショーヴランでいようと思って。休みの日にちょっと笑っただけでも「あっ、小池先生に見られたらどうしよう」と思うくらい(笑)、自分のすべてを懸けて取り組みました。

それ以降、稽古場というのは舞台に向かうための場所であって、仲のいい仲間たちと楽しく時間を過ごす場所ではないと思うようになりましたね。今も9月に再演する『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』(東京・TBS赤坂ACTシアターほか、ウィルキンソン先生役)の稽古中ですが、ビリー役やほかの子役たちと仲良くすることが目標ではなく、“ウィルキンソン先生と子どもたち”として日々接していくことが大切と思って取り組んでいます。稽古場でどうあるべきかということはショーヴランで学んだ気がしますね。

ミュージカル『ビリー・エリオット』2020版PV

――柚希さんが井上芳雄さんのラジオ『井上芳雄by MYSELF』(TBSラジオ)にゲスト出演(2019年8月11日放送)されたとき、ショーヴランのナンバー『君はどこに』をデュエットしていましたが、上演から10年以上経ってもすぐにショーヴランになりきることができるのだということに驚きました。

久しぶりでしたが、歌うとすぐに感覚がよみがえります。そして楽譜を初見ですぐにハモってくださった井上さんもすごいなと思いましたね。                            

本当にカッコいい男役は“自分らしさ”を出している人――『REON!!』

柚希礼音

――そして、2作目に挙げられたのは、柚希礼音スペシャル・ライブ『REON!!』(2012年)です。2013年の『REON!! II』、2014年の日本武道館公演『REON in BUDOKAN~LEGEND~』、そして宝塚退団後のソロコンサート『REON JACK』(2016年)『REON JACK2』(2017年)『REON JACK3』(2018年)と連なる系譜は、柚希さんにとってはライフワークのようになっています。

星組公演 柚希礼音スペシャル・ライブ『REON!!』
作・演出/藤井大介
主演:柚希礼音
公演期間:2012年3月8日~3月20日(梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)/2012年3月25日~4月1日(日本青年館 大ホール)
第一部「RE(再び、あとに)」、第二部「ON(~に向かって)」の意味合いをシーンごとに盛り込み、『REON』が完成するという構成のショー。鍛え上げられたダンス、魅惑的な歌声で魅了する柚希礼音の新たな魅力を打ち出すスペシャル・ライブ。

それまでは、みんなが「カッコいい」と思うような男役にならないといけないと思って必死にやってきたんです。でも『REON!!』では1幕も2幕もショーだから、切っても切っても「カッコいい柚希礼音」だけだとステージがもたないと思って。

私が作詞した『ちえちゃん』(自身の本名)という曲で私の家族の物語を演じたり、2幕初めにはREONファンの「ちえ子」を演じたりしたんです。今までなるべく出さないでいた、本来の自分に近いものを、意を決して舞台で出したんですが、思いのほか多くの方たちが愛情をもって受け止めてくださいました。

そのとき、カッコいいところだけを見せようとしている自分がカッコよくないと気づいたというか。ファンの方からも、役柄だけでなく、“柚希礼音”という人間を、欠点も含めて応援していただけるようになったんだと思います。

柚希礼音

――この頃から、ご自身が求める男役像も変わってきたのでしょうか?

そうですね。宝塚では「芸事は真似ることから始まる」と言われて、私も素敵と言われる男役さんを研究してきました。でも、ずっとカッコつけているのも、自分らしくないような気がして……。

「本当にカッコいい男役というのはカッコつけている人のことじゃない。結局は“自分らしさ”を出している人がカッコいいんじゃないか」と思うようになったんです。欠点もあることで、より素敵な男役になることができるのかなと思って。映画や韓流ドラマを見ても、ちょっと抜けているところや欠点があるから、愛情が芽生えるんだと理解できるようになってきました。

柚希礼音

――欠点と思える部分も含めて自分らしさを表現する柚希さんのスタイルにファンの方たちが共感された。それで、宝塚退団後の今も熱い気持ちで応援していらっしゃるのではないかと思います。

“カッコいい”だけでは、一時期はいけても、長い愛情にはつながらないような気がします。『REON!!』の頃からファンの方との絆が生まれてきた。これってすごいことだなと思うんです。「今度こそ、お客様に幸せを感じてもらうぞ」と思うのに、結局は私がすごく幸せをもらって公演が終わる。お客様と私で良いオーラがキャッチボールされ合う空間になるんですね。                            

毎日心の震える思い……宝塚歌劇100周年の幕開けを飾った超大作の大役――『眠らない男・ナポレオン -愛と栄光の涯に-』

柚希礼音

――3作目に挙げていただいたのは『眠らない男・ナポレオン -愛と栄光の涯(はて)に-』(2014年)。宝塚歌劇100周年の記念すべき第一作として、「宝塚から世界へ発信するオリジナル作品」を目指した超大作ミュージカルです。作・演出は小池修一郎さん、作曲は『ロミオとジュリエット』のジェラール・プレスギュルヴィックさんという日仏コラボレーションでの創作でした。

星組公演『眠らない男・ナポレオン -愛と栄光の涯(はて)に-』
作・演出:小池修一郎
作曲:ジェラール・プレスギュルヴィック
公演期間:2014年1月1日~2月3日(宝塚大劇場)、2月14日~3月29日(東京宝塚劇場)
あらすじ:フランスが生んだ最大のヒーロー、ナポレオン・ボナパルト。その栄光に彩られた人生の軌跡を、妻ジョセフィーヌとの愛と葛藤を中心に、切なくも激しい魅惑のメロディの数々に乗せ、壮大なスケールで描く。

宝塚100周年を迎えた2014年1月1日の公演初日、空気がピンと張りつめていたのが忘れられません。この日に舞台の真ん中に立たせていただけることの重さをつくづく感じて、緊張したのを覚えています。宝塚に出会えてよかった、宝塚のおかげで人としても芸事をする者としても成長させていただけたなと強く思いましたね。                            

ナポレオン・ボナパルトを演じた柚希さん

――柚希さんが演じたのは、フランスが生んだ最大のヒーロー、ナポレオン・ボナパルト。

宝塚100周年の公演ということで、何を題材にするか、小池先生もさんざん悩まれたそうです。大作ミュージカルを作るにあたって、とても人間味がある人物を選んでくださったなと思います。

私がこの作品で好きだったのは、ナポレオンが1幕のラストまで意気揚々と成功の階段を駆け上り、成し遂げていくのに、2幕になるとどんどん転落していくところ。ナポレオンが勢いのあるうちは民衆も「この人、最高!」とばかりに支持するのに、ひとたび落ち始めると手の平を返したように離れていく。そういうところがとてもリアルだなと思いましたし、頂点を極めた人はこういう思いをしてきたんだろうなと思いましたね。

自分で演じるまではナポレオンにはあまりなじみがなかったんですが、今では、「パリ」と聞くだけで「ナポレオン、ありがとう!」と思うくらい(笑)愛着を持っています。実在の人物ということもあり、毎日心の震える思いで演じていました。

柚希礼音

――宝塚歌劇100周年を支えた柚希さんにナポレオンの栄光と転落の物語を当てた、小池先生の慧眼と愛情を感じます。

この作品を演じることで、星組もさらに一つになれました。栄光を極めたナポレオンが弱い部分をさらけ出していく姿を描かれたのも、小池先生の素晴らしさだと思います。

2幕ではみんながナポレオンの元を離れていったところで終わるんです。「えっ、ここで終わるの?」と驚きましたが、最後まで意地とプライドを持ち続けようとする男の生き方に惹かれましたね。ナポレオンを演じたことで、自分の中で新しいものが生まれた気がします。

ビデオに“横線”が出るほど研究、姿月あさとさんが演じたホセ

柚希礼音

――それでは、柚希さんが観劇されて印象深かった宝塚作品についても、お聞かせください。

『激情 -ホセとカルメン-』(1999年)ですね。宙組で姿月あさと(しづき・あさと/宙組初代トップスター)さんと花總まり(はなふさ・まり/宙組初代トップ娘役)さんが役に入り込んで、素晴らしい吸引力で演じていらっしゃったし、柴田侑宏先生の脚本も謝珠栄先生の演出も素晴らしかった。

最後は舞台一面の黄色い花が咲く中でカルメン(花總さん)が立っているところにホセ(姿月さん)が歩いていくんですが、大劇場で観たその絵面が美しくて。宝塚の作品はセットも衣裳も含めて、すべてが素晴らしいなと思いましたね。

――それほど感動した作品を、柚希さんは全国ツアー公演(2010年)で演じられましたね。

初演を見たときの感動も大きいし、画面に“横線”が出るくらい何度もビデオを見続けました。ずんこさん(姿月さん)が演じたドン・ホセは、自分の仕事を辞めてまで、カルメンにすがりついていく。決してカッコいい役ではないと思うけれど、母性本能をくすぐった。

それをなんとかして取り入れたいと思って、どんなに真似をしても追いつかないけれど、ずんこさんのように素敵に見えるにはどうしたらいいんだろうと一生懸命研究しましたね。究極まで人を愛することが素敵に見えるんだろうなと思いました。

宝塚の男役がファンの心をとらえるのは、「女性が考える男」だから

柚希礼音

――柚希礼音さんが2015年5月に宝塚を退団されて5年。今改めて感じる宝塚の魅力や独自性は、どんなところにあると思いますか。

演者が女性だけの劇団で、男役がいることが宝塚独自のものであり、魅力につながっていると思います。

――男役が演じている男性像が、女性ファンの心をとらえるのはどうしてだと思いますか。

やっぱり、女性が考える男だからでしょうね。映画や舞台でいろんな男性の役を研究して「ああ、こうやったら女性はうれしいのに」と女性心をもって演じることができるから、素敵な男性像が作れるんじゃないかという気がします。

はじめのうちは、歩き方もお酒の飲み方もぎこちないところから始まるんです。でも、ぎこちないところを通らないと先はないので。とにかく上級生の男役の演技を見て、韓流ドラマや映画などで「素敵」と言われている俳優を見て、ひたすら研究しましたね。

柚希礼音

――宝塚の舞台を観るとき、後輩のタカラジェンヌたちはどう見えていますか? 例えば「かわいいな」と思うのか、「頑張ってるな」と思うのか……?

お客様と同じ目線で感動して観ているときもあります。舞台って出演者がどんな姿勢でこの作品に向かって、どんな稽古期間を過ごしてきたか、丸裸に見えるものなんですよ。「あ、この子、何か立ち止まっている気がする」という子にはちょっと声をかけたりもします。

新人公演で自分の役を演じていた子がトップスターになるときにはより良くなってほしいから、衣装の着こなし方など「ここはこうした方がいい」と具体的に伝えることもありますね。

あとは、ラインダンス。宝塚ではラインダンスに出演するのは下級生というイメージがありますが、「海外のレビューではラインダンスに出演するのは選ばれし人たちなんだからね」と、在団中からずっと言っていたんです。だから観に行くときは、ラインダンスがどうなっているか目を光らせ(笑)、気になるところがあるときは組長さんか新人公演の最高学年の人に伝えたりします。

柚希礼音

――退団後もそこまで見ているなんて、愛情がないとできないことですよね。

私たちもそういうふうに教わり、つなげていただいたので。時代と共に変わっていく部分がありながらも、永遠に失くしてはいけない宝塚の良さというものがあると思うんです。100年以上続き、先輩方が大事にしてきたところはちゃんと受け継いでいくべきかなと思いますね。

「本当に光栄」二番手時代のトップスターとのダブルキャスト

柚希礼音

――実は、『ビリー・エリオット』初演(2017年)を拝見したとき、バレエダンサーを目指す主人公ビリーを指導するウィルキンソン先生(柚希さん)の姿が、柚希さんが宝塚のトップスター時代に下級生の男役を熱い思いを込めて導いてきた姿と重なって感じられたんです。

ウィルキンソン先生は、大切だと思う人を抱きしめたりかわいがったりすることに慣れていない人。昔、愛情をかけた人に裏切られたような経験があったんでしょうね。それで、はじめはビリーにも深く関わりたくないと思っていたんです。

でも、後半に行くにつれて「ビリーはこの小さな町にいてはいけない」「ロイヤル・バレエ・スクールの試験に合格させたい」という気持ちがふくらんでいく。“飴とムチ”でかわいがったり厳しくしたりしながらビリーを指導していくのは、宝塚時代「この子に一番伝わるのはどう言ったらいいかな」と思いながらやっていた頃を思い出しますね。

『ビリー・エリオット』初演(2017年)より 写真提供:ホリプロ

『ビリー・エリオット』初演(2017年)より 写真提供:ホリプロ
――ウィルキンソン先生はバレエ教師の役ですが、柚希さん自身、幼い頃からバレエを習っていらっしゃったんですよね。

自分もいろいろな先生から愛情をもって厳しく教わってきたので、先生方の教えを思い出したり、改めて感謝したりしながら演じています。

――今回、ウィルキンソン先生役を柚希さんとダブルキャストで演じるのが安蘭けいさん。先ほど「節目となった作品」として選ばれた『スカーレット ピンパーネル』で主人公のパーシー役を演じた方です。

すごいですよね。二番手のときの自分を考えると、安蘭さんと同じ役を演じさせていただけるなんて信じられないですし、本当に光栄です。稽古場ではなかなか一緒にならないんですが、この間初めて二人で同じ場面を一緒に稽古したとき、安蘭さんの役作りが私とは全然違っていたんですよ。それがとても勉強になりました。

柚希礼音

――『ビリー・エリオット』は大きな評判を呼んだ初演から3年ぶりの再演です。

『ロミオとジュリエット』の再演のときもつくづく思ったんですが、再演は本当に恐ろしい。初演のときは勢いで行くこともできるけれど、再演になるとお客様は「初演はよかったらしい」という思いで来てくださるから、初演の何倍もよくないと「よかった」と思っていただけないんです。前回やったことを何となくなぞってやるのではなく、より新鮮で血の通った人物をお見せしないといけないんですね。新たな気持ちで取り組んでいます。

柚希礼音

――多くの舞台が新型コロナウイルスの影響を受けましたが、柚希さん主演の『ボディガード』は大阪公演の一部と東京全公演が中止。『ビリー・エリオット』も7月、8月の公演が中止となり9月からのスタートとなります。今の状況でどんなことをお考えでしょうか?

人間は健康に生きることが大切。エンターテインメントは健康とちゃんとした生活があった上でのものなので、歴史に残るほどの危機的状況の中では公演中止はやむを得ないことでした。また、『ビリー・エリオット』は準備期間が3か月必要なので、9月開幕がギリギリだったんです。

劇場も公演主催も皆さんが不安にならないようにしっかりと対策を立ててくださっています。エンターテインメントは皆様の心を豊かにするもの。心と体はつながっているといいますから、心も体も健康になるような明日への活力をお届けできたらと思います。

『ビリー・エリオット』という作品を通して「ああ、明日も頑張ろう」と思っていただけるような前向きなメッセージをお伝えしたいですね。そのためには、私たちは大きなエネルギーをもって本気で挑まなければならない。しっかりと真摯に向き合っていきたいです。                            

柚希さん演じるウィルキンソン先生(2017年) 写真提供:ホリプロ

柚希さん演じるウィルキンソン先生(2017年) 写真提供:ホリプロ
――最後にお聞きします。柚希さんにとって、「宝塚」とは?

自分にとって「故郷」という言葉だけでは言い尽くせない。私の人格はすべて宝塚で作ってもらいましたから。宝塚という組織そのものが役者として育ててくださるうえに、上級生からも、同期や下級生、歌劇団のスタッフの方からも、気遣いや感謝など人として育ててくださる。だから、私にとって宝塚は「恩師」ですね。

 

スペシャル動画

 

プロフィール

柚希礼音

柚希礼音(ゆずき・れおん)
6月11日生まれ。大阪府出身。1999年、宝塚歌劇団に入団し初舞台。同年10月、星組に配属され、2009年にトップスターに就任した。主な主演舞台は『ロミオとジュリエット』、『オーシャンズ11』、『眠らない男・ナポレオン -愛と栄光の涯(はて)に-』など。2014年には宝塚歌劇100周年を支えるトップスターとして活躍し、同年11月には日本武道館で単独コンサートを開催。2015年5月10日、宝塚歌劇団を退団。その後は舞台を中心に活躍し、9月から再演されるミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』(9月11日~14日、9月16日~10月17日/東京・TBS赤坂ACTシアター、10月30日~11月14日/大阪・梅田芸術劇場メインホール)では、主人公ビリーのバレエの才能を見出し、指導するウィルキンソン先生を演じる。

 

作品情報

『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』公式サイト

『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』

 

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この記事について
俳優・歌手・芸人・タレントらの趣味嗜好を深堀りしつつ、ファンの「好き」を応援。
この記事は、LINE初の総合エンタメメディア「Fanthology!」とオリコンNewSの共同企画です。今後、さらに気になる人の「これまで」と「これから」をお届けしていきます。
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